両親に紹介という大きな試練を乗り越えよう
俺は緊張していた。なぜなら、今日は彼女の両親とフレンチレストランで会うという予定が入っていたからだった。彼女の優美は、いわゆる「お嬢様育ち」だったらしい。幼少のころからピアノや習字などのお稽古ごとは当たり前。テレビはいつもNHKを強制的に視聴させられて、品性のないバラエティ番組などは存在すら知らなかったという環境。俺はというと、いわゆる「一般市民」。習い事なんて受験の前に塾に通ったくらい。「習い事なんかさせるより、公園で泥だらけに遊ばせたほうが大きく育つんだ」という親父の方針のもと、俺は自由に育った。優美は、そんな俺の自由なところに惹かれたそうだ。しかも、俺のことを「物知り」だと言う。
しかし、俺の知識は雑誌やテレビを見ていれば普通に吸収できちゃう類のものなので正直物知りだと絶賛されると微妙な気持ちになる。「どうして高級フレンチなんだよ?」と聞くと、ポカンとしている優美。「居酒屋とか焼き肉屋でもいいんじゃない?」俺の提案に彼女は心底驚いていた。しかし、こういう「別の人種」だったからであろうか。俺は難なく優美と両親と馴染めることができた。「もう近所のおっさん、おばさんだと思って接しよう」と開き直ったのがよかったようだ。「あんな気さくな青年なら一緒にいて楽しかろう」そんな評価をいただいたようだ。
しかし、反対に俺の両親の優美に対する評価は低かった。お嬢様育ちだし、可愛いし、絶賛するはずだと思っていたのだが「なんだか可憐というか頼りなさそうね」「お前がしっかり守ってあげなきゃいかんぞ」なんて言われる始末。「電車もひとりじゃ乗れないかんじなんじゃない?」などと言いたい放題。俺の両親に優美を紹介したのは居酒屋。両親はニコニコ笑って、優美と話をしていたからてっきり好感を抱いていると思っていた。「うちの親、腹黒!」と思うのと同時に、優美の両親も俺に対して低評価だったんじゃないかと考え直して体がゾクっとしてしまった。